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2012年8月17日金曜日

映画小説「あなたへ」で紹介されている山頭火の句。



<高倉健さんへのインタビュー>より

 「以前、(脚本家の)早坂暁さんに『山頭火書こうと思うから、健さんにやってほしい』と言われたことがあるんですよ。僕は、『ええ! あの坊主みたいな』って断ってしまった。そうしたら、フランキー堺が演じたんで、『なんで、あんなのやったの』って聞いた。僕はずれてるんですね。勉強不足だったな。あんないい句を作っている人なのに。でも、なぜ、早坂さんは、僕に山頭火をやらせようとしたのか。今度会ったら聞いてみたい。」

山頭火の句で好きな句はありますか。

「この間、取材を通して教えられた
何を求める風の中ゆく
これはすごいですね。『何を求めて仕事をしているのかな』って。今の僕の心境かな」


健さん、1931年2月16日生まれだから、81歳。
県立東筑高校から明治大学商学部へ。東映のマキノ光雄に才能を発見される。
任侠映画からの脱皮した映画が、1978年、降旗康男監督の「冬の華」(倉本聡脚本)。
今回は映画「ホタル」で共演の田中裕子、「夜又」で共演のビートたけしが登場。

 年をとっても、主役を張れるスーパースターは、高倉健と吉永小百合しかいない。
スタッフは、高倉健さんのもつ魅力を、意気込みをこめて演出する。
高倉健さんは、団塊の世代を代表して、現在を描き、人それぞれの進むべきヒントを示唆する。


琵琶湖のほとりでの場面(小説「あなたへ」より)
杉野の口から出る言葉。
「山頭火は放浪の俳人なんて言われているんですけどね。倉島さんは、旅と放浪の違いって、何だと思いますか?」
  そんなこと、考えたこともない。
「……何ですか?」
「私はね、目的があるかないか、だと思うんです。そういう意味では、芭蕉は旅で、山頭火は放浪と
いうことになりますか。『分け入つても分け入つても青い山』。山頭火はこんなふうに己の思うままに放浪して、自然な想いを五七五にこだわらず詠んだんですよ。だからでしょうね、いまだに人々を魅了するのは」

森沢明夫著、小説「あなたへ」に登場する、山頭火の句を抜き出してみた。

蜘蛛は網張る私は私を肯定する

けふもよく働いて人のなつかしや

分け入つても分け入つても青い山

こんなにうまい水があふれてゐる

行き暮れてなんとここらの水のうまさは

からむものがない蔓草の枯れてゐる

風鈴の鳴るさへ死のしのびよる

鶲(ひたき)また一羽となればしきり啼く

うれしいこともかなしいことも草しげる

ひとりとなれば仰がるゝ空の青さかな (「草木塔」以外の句)

それもよからう草が咲いてゐる

捨てきれない荷物のおもさまへうしろ

このみちをたどるほかない草のふかくも

雨ふるふるさとははだしであるく


 淋しい想いで、ふるさと防府の街をはだしで歩く山頭火の姿がある。
だが、はだしになって歩くことで、いつしか目覚めて、明日に向かっての第一歩を歩もうとする、明るさを感じてくる句。


小説より、倉島英二コト高倉健の行動を追って見る。
倉島は平戸の薄香漁港に着く、キャンピングカーで寝ているのだ。

台風が近づいている。
横殴りの大雨、靴をぬぎ、靴下も脱ぎ、Tシャツとスボンだけになる。
スボンを少しめくって、素足で濡れた雑草の上を歩き回る。
両手を広げて、白濁の空を見上げる。
もっと降れ、もっと降れ……。
雨の勢いが強くなればなるほどに、私の鎧は洗い流され、そして、むぎ出しになりひりひりしてくる。………。だだ裸足になってドアの外に一歩でるだけで、世界はこんなにも違う。
こんな小さな一歩で、世界も、自分も、変えられるチャンスは生じるのだ。
自分が変われば、未来だって……。
変わるよな、洋子。

 この一節を読んで、
 <雨ふるふるさとははだしてあるく>と詠んで歩く山頭火の顔には、いつしか笑顔が浮かんで、変わろうと吹き切れて、第一歩を歩んでいく山頭火が、そこにいるようだ。


下関から山口映画センターの山本末男さんが、一草庵を訪れた。
8年間あたためた構想を元に、山頭火生誕130年を記念して、「山頭火」を映画化するそうだ。
完成は2013年7月(予定)、全国公開2013年11月(予定)とのこと。

 2001年映画「みすゞ」主演:田中美里をプロジュースした人、期待できる。