『一草庵・親子俳句絆賞』
小西昭夫選
特選〈湯築小学校〉
くわがたの最強はさみゆび切れる 髙岡大悟(3年)
せみの声家では我が子けんか中 髙岡真理子(母)
ちょっと、わんぱくな大悟君が想像されます。くわがたのはさみのあいだにゆび
をもって行ったのでしょうか。外では蝉が激しく鳴いていますが、家では兄弟げ
んかの真最中。元気が何よりですが、ちょっと暑い夏です。
入選〈姫山小学校〉
すずしそうソーダキャンディうみの色 河野一貴(2年)
ぐんぐんとキュウリの芽がのびている 河野貴士(父)
ソーダキャンディの色をうみの色だと感じた一貴くん。このソーダキャンディいか
にもすずしくておいしそう。お父さんはぐんぐん伸びるキュウリの芽に注目
一貴くん親子の素直な視線が気持ちいい。
入選〈清水小学校〉
パパのよこわたしもおどるタコおどり 榎津志菜(2年)
凧揚げるパパの横顔誇らしげ 榎津由美子(母)
「タコ」つながりの楽しい親子。ひょっとしたら、志菜ちゃんはお父さんの真似をし
てタコおどりをしているのだろうか。ひょうきんなお父様だ。そんな親子をお母さま
は優しく見守っている。凧を誇らしげに揚げるお父様もお母さまの子どもかも。
入選〈清水小学校〉
ももきればあまいにがいのみわけつく 栗田紗梨菜(3年)
にがいももパパが帰ったらあげなさい 栗田博子(母)
言われてみれば、にがいもももあるような。きっただけで、あまいにがいのみわ
がつくなんてすごい。もっとすごいのはお母さまだ。「にがいもも」は「パパが帰っ
たらあげなさい」ときた。もう、笑うしかない。
白石司子選
特選〈清水小学校〉
ベランダで見つけたクワガタ宝物 保手浜 凱(5年)
悪ガキに「もう捕まるなよ」とカゴひらく 保手浜 寛(父)
子供は「ベランダで見つけたクワガタ」を「宝物」にしているのに、
親はと言えば、「もう捕まるなよ」とカゴをひらき、逃がしている。
このやりとりが何とも微笑ましい。自身の子を「悪ガキ」と言って
いるところにも、しっかりとした親子の絆を感じる。
入選 〈湯築小学校〉
じいちゃんとすいかとりあうおいしいな 藤田和馬(1年)
右に西瓜左に我が子実家行く 藤田奈緒美(母)
一人で食べるよりも、じいちゃんと取り合うすいかの方がおいしい
よね。また、「右に西瓜左に我が子」で実家に行くという、お母さま
にも家族愛を感じさせるものがある。「右に林檎」などでは、この母
性の強さ、逞しさはとても表現できない。
入選〈湯築小学校〉
日やけしてけがの場所だけ白いまま 白川真圭(4年)
玉のあせ朝練で見るこの子の成長 白川春香(母)
君は、日やけしても白いままのけがの場所に思春期独特の感慨みた
いなものを抱いているのに、親はそんな君に「成長」を見ている。
親子っていいなと思う。
入選〈姫山小学校〉
シーツからばあちゃんのにおいぼん休み 近藤漱太(3年)
孫に会ふ支度も楽し明日は船 野崎操子(祖母)
毎年、「ぼん休み」に行くばあちゃんの家。孫に会う支度の一環と
して、「シーツ」も洗ったのだけど、君にとっては永遠に忘れるこ
とのできない「ばあちゃんのにおい」。「明日は船」のフレーズが、
君が来るのを何よりも楽しみにしているばあちゃんの姿を彷彿とさせる。
本郷和子選
特選〈姫山小学校〉
食べたいなカルピス味の入道雲 守谷柚花(4年)
もう一杯そそぎ沸き立つ積乱雲 守谷真由美(母)
入道雲はもこもこふわふわして、わた菓子のようなのか、
カルピスの味のする雲なんておいしそう。
これはビールのあわのようでしょうか、もう一杯そそぐと
沸き立つ雲のようなのです。母子共に雲を材料にした素晴
らしい句です。
入選〈姫山小学校〉
つゆ空へ明日天気にしておくれ 越智ひなた(4年)
ホタル追う大人も子供も同じ顔 越智直子(祖母)
「明日天気にしておくれ」の唄の言葉がちょうど七、五になり
「つゆ空へ」を上に持ってきただけで俳句になったのですね、
おもしろいことです。
大人も子供も蛍を追う時は目が輝き笑顔になるのです、その
時の情景が見えるようです。
入選〈清水小学校〉
兄ちゃんとスイカの種のとばしっこ 松原 愛(4年)
ふるさとの父から届く初スイカ 松原知津子(母)
庭でお兄ちゃんとスイカの種をとばしてどちらが遠くへ飛ぶか競争して
いるのでしょう。そんなことも、きちんと俳句になるということです。
田舎の父上が西瓜を作っているのですね、今年初めてとれたおいしい西
瓜が届いたので、それを食べたら、右の句の種どばしっこができたのでしょう。
入選〈湯築小学校〉
なつのあめやねにあたって大さわぎ 山本萌亜里(2年)
セミにもまけぬ娘二人の話声 山本 恵(母)
夕立かなんか急にザァーザァー降ってきた雨なのかそれを「大さわぎ」と
したことが大変上手。雨も人間も大さわぎしたみたいです。
蝉の鳴き声はやかましいと思うほどにぎやかです。それにも負けないほど
女の子二人の話声。元気で明るくよくしゃべる、姉妹なのでしょう。
お母さんもその中に入って女三人寄れば姦しいと言います。
特選〈湯築小学校〉
はつなすびひかるむらさきアメジスト 永井美羽(2年)
夏の夜川面におどる蛍かな 永井優子(母)
美羽ちゃんは、初めてなったナスが、紫色に光っているのを
「アメジストのよう」と感心。お母さんは、蛍が踊るように川面
を飛ぶさまに目を奪われています。どちらも自然の美しを詠んでいます。
入選〈清水小学校〉
にちようびつゆのはれまにくさむしり 栗田兼光(1年)
泥まみれよくできましたと髪洗ふ 栗田博子(母)
雨続きで、庭にいっぱい生えた草むしりを手伝ったのかな。
泥まみれになったわが子に「よく頑張ったね」と感謝しながら、
お母さんが髪を洗ってくださったのでしょう。
入選〈姫山小学校〉
夏祭りくじもしゃ的も大当たり 三好詠太(4年)
とげ知らぬ子の小さき手茄子を採る 三好美和(母)
夏祭りに行くと、いろいろな楽しみがあります。くじを引いても
射的をしてもうまくいったようで、おめでとう。でもナスにとげ
があるのは知らなかったようだね。うっかり手を出すと「痛いっ」となるよ。
入選〈湯築小学校〉
雨あがり頭の上をホタルまう 仙波楓花(5年)
乾かない靴と洗濯梅雨の空 仙波周子(母)
ホタルが飛び始め、頭の上をこえていくのをうっとり見とれている
少女が目に浮かびます。お母さんの方は、じめじめした梅雨のため、
家族の靴や洗濯物が乾きにくいのを嘆いています。親子で夢と現実
の世界を見せてくれました。