(投句期間は、27年11月1日~28年2月29日)
表彰式は、公開句会「俳句一草庵」開催日4月29日(祝・金)に一草庵で行いました。
一草庵の「山頭火俳句ポスト」に投句された俳句は165句。
(内、県外句の数13句 東京都、秋田市、千葉市川市、名古屋市、東広島市等)の投句の中より、各選者の先生に優秀句を選んでいただきました。)
山頭火俳句ポスト賞
たつぷりと春の水入れ粥を炊く 松山市 田村七重
【評】「粥を炊く」水に春の来た喜びを感じている。もちろん
「粥を炊く」程度の量の水であり、それほどの量でもないのだが、
それを「たっぷり」と感受するところが素晴らしい。まるで、
山頭火の心が乗り移ったような句である。(小西)
山頭火一浴一杯賞
いつかとはいつなのか檸檬かじる 松山市 岡崎 唯
【評】禅問答のような句。我々人間は、「いつかきっと!」などと
安易に他者、或いは自身と約束してしまうが、よく考えてみれば、
「いつかとは」いったい「いつなのか」ということになってしまう。
そして、季語「檸檬」の斡旋がこの句を俳諧味あふれるものとし、
「かじ」りながら苦渋している作者像を髣髴させる。(白石)
山頭火柿しぐれ賞
いつかとはいつなのか檸檬かじる 松山市 岡崎 唯
【評】いつかとは、幸せになれる日なのか、それとも、人生の終わり
の日のことか。この「いつか」は、読む人によって如何様にもとれる
言葉である。それを、「いつなのか」と疑問形にすることも又、深い。
「檸檬かじる」によって青春期の心の葛藤までも連想する。
いや、老年であっても、このレモンの味は一句を生きたものにさせている。(本郷)
小西昭夫選
【特選】
三人の集団下校豆の花 東温市 井門敬之
【評】おそらく、この日だけが「三人の集団下校」なのではないだろう。
毎日「三人の集団下校」なのだ。豆の花がさく農業地域だろうか。
豆の花に見守られた小さな集団が美しい。
【入選】
百歳の骨を拾ふや春の雪 東温市 井門敬之
【評】お身内の方だろうか? 百歳まで生きられたが力尽きた。
訣れは悲しいがよく生きてくださった。
春の雪もその生涯をたたえているに違いない。
白石司子選
【特選】
藪椿大木となり静かな空 松山市 田村七重
【評】「藪椿」は、花が咲き誇っているものなのか、それとも全て散
り尽くしてしまったものなのかはわからないが、紆余曲折を経て
「大木」となった後には、「静かな空」、つまり、宇宙が待っている
といったような、「軽み」の境地もうかがわせる作品。
高さ十~十五メートルに達する野生のツバキ・「藪椿」が孤高を感じさせる。
【入選】
四温晴遠まわりして一草庵 松山市 松田とよ
【評】作者は、きっと「一草庵」の醸し出す雰囲気が好きなのであろう。
そして、もちろん「三寒」よりも「四温」が好き!
だから「四温晴」の今日は、わざと「遠まわりして」山頭火さんに会いに行くのである。
本郷和子選
【特選】
寒明けの進水式の斧一打 松山市 大川忠男
【評】完成した船の進水式の景である。大勢の人が見守り中、斧一打
で船はゆるやかにスッーと海に出る。
いよいよこれから春になる「寒明け」の季語を配し表現が巧み。
船の進水は、明るい希望に満ちた句となった。
【入選】
喧嘩独楽手ほどき受けて出陣す 松山市 大野恵子
【評】ほとんど見かけなくなった独楽まわしであるが、昔の少年たち
は喧嘩独楽をよくしていた。先輩や父親に手ほどきを受けいざ出陣
というわけ。まことに楽しい場面を一句にしている。
「出陣す」の下五で、拍手を送りたくなる。
熊野伸二選
【特選】
笹鳴きの移りて風の残りけり 松山市 丹下恵美子
【評】鶯は、冬から早春へ「チャッ、チャッ」と「笹鳴き」しながら
採餌して藪の中を移動する。笹鳴きの俳句は多いが,いずれも姿を
隠して移動する鶯の特性を表す句が目立つ。
掲出句も、声が移動した直後の風を感じている。鳴声と空気の動きという目で確認できな
いものを捉えた感性と表現に脱帽。
【入選】
日めくりを三枚めくる春の風邪 松山市 今岡美喜子
【評】寒暖差の激しかった今年の冬は、風邪をひいた人が多く、作者も
臥せっていたようだ。やっと起き上がった時、日めくりカレンダーが
寝込んだ日のままになっていたのに気付いた。三日間も寝込んでいた
ことが判る。体調が戻って、新たな日を始める喜びが隠れている。
山頭火俳句ポスト児童賞
はつすずめことしもみんななかよしだ 東京 渡辺楠央
【評】元日に見る雀を、俳句では初雀というが、よくそんな季語を知っている
と感心した。家族で正月を楽しく過ごしていると、庭先へぱらぱらと雀が舞
降りてきた雀たちの、じゃれ合うように遊ぶ姿を見て「仲がいい」と思う
作者もまた、家族みんなと仲良く幸せなのだ。(熊野)