今週の山頭火句

今週の山頭火句 朝湯こんこんあふるるまんなかのわたくし 山頭火

2021年3月19日金曜日

第31回山頭火俳句ポスト賞の発表

 第31回山頭火俳句ポスト賞を発表します。

                   

                      

 (投句期間 令和2年9~令和3年2月28日)                                              

表彰式は、4月29日(祝)の公開俳句大会「俳句一草庵」会場で行います。
               
                    
   一草庵の「山頭火俳句ポスト」に投句された俳句は、165句
   新型コロナの関係で、県外の投句は、五句(長野県伊那市、横浜市、徳島市)。
                   
  

         

  








山頭火俳句ポスト大賞     
  初紅葉今年も生者として見る   松山市 田村七重
【評】いつの時代も我々人間に降りかかるさまざまな災厄。そして、はなやかな中に散る寂しさを感じさせる紅葉だが、「初」、そして他を類推させる助詞「も」が、多くを想像させ、「来年も」、また、「亡くなられた人々の分も」という、作者の生に対する力強さを思わせる。「生者として見る」の断定がいい。(白石)

山頭火一浴一杯賞
あの世ではこの世があの世秋深し       松山市 かめいたかし
【評】あの世とは、浄土、天上界、仙境、常世(とこよ)などなどと言う。今私たちのいるこの世は現世。あの世に行けば現世はあの世になるという。なるほど、してみればこの世とあの世は確実に一本の道で繋がっている。そして境目はないのだ。あの世に行けば、今のこの世のことをどう思うのであろう。秋深くなって、いよいよ人生感、死生感を深くするのだ。(本郷)

 
山頭火柿しぐれ賞
鵙一声一草庵に響きけり                   西条市  丸山英子
【評】一草庵終極の光りは浄らかである。今こそ静かに想えば、寿命の長短
など観念の影であろう。鋭い一声の生命と一瞬の光が宿る。(髙橋)
     
小西昭夫選
【特選】
日の短かきをことりしきりに鳴く         松山市 福岡美香
【評】短い冬の日に小鳥がしきりに鳴いている。そんな小鳥っていたっけとツッコミを入れたくもなるのだが、そこがこの句の面白いところだ。個人的には鶲や鶺鴒が浮かぶのだが、どちらも秋の季語である。そんなことに拘らないのが自由律のいいところだ。七三六のリズムも愉快である。新しい小鳥の姿を見せてもらった。個人的には「ことり」は「小鳥」と書きたい。「ことり」だと「小鳥」がひらがなに埋没してしまうと思うから。
【入選】
あの世ではこの世があの世秋深し      松山市 かめいたかし
【評】面白いなあ。確かにあの世から見ればこの世があの世なのだ。この価値の相対化が出色だ。季語の「秋深し」ももの思わせる。ただ、この句の欠点を言えば、面白さの面目である「あの世ではこの世があの世」という認識が少し理屈っぽいところ。つまり、意味重視の句づくりになっているのである。すぐれた俳句は意味から自由である。

  
白石司子選
【特選】
 春耕や土黒々と深呼吸                   松山市  近藤節子
【評】「春耕」に「土」は少し近いような気もするが、黒ではなく、鮮やかな黒さで
「黒々」が、大地の輝き・重み、また、耕すことに対する作者の意気込みみたいなもの
を感じさせる。「深呼吸」しているのは、土でもあり、作者でもあるという解釈も可能だ。

【入選】  
おでん酒病自慢の始まりぬ               松山市 北村まさこ 
【評】庶民的で和やかな席を思わせる「おでん酒」。お酒がすすむごとに話題
となるのは、もっぱら孫の話かと思えば「病自慢」なのである。足腰などが衰
えるのも、いろいろなところが痛くなるのも生きていればこそ!おおらかで明
るい句である。
    
本郷和子選 
【特選】
晩年は障子明りに目覚めたし          松山市 今岡美喜子
【評】いつからを晩年というのか、現役を退き、子育ても終え、壮年期から老年期に入り、これからはゆっくりと残生を過ごしたいと思う。目覚まし時計も無縁となり、朝日の差す障子の明りによって目覚める。なんと健康的で、安らかな朝であることよ。だれしもの願望を込めた一句であろう。

【入選】
波止浜のクレーンはあくび春の風     松山市 奥村繁子
【評】造船所の林立するクレーンが欠伸をしているのだ。作者が見ている時、クレーンは退屈で静止していたのか、それとも大きく動いている様を欠伸しているようだと捉えたのか、どちらにしても独自の発想がおもしろい。欠伸に春の風の季語がマッチして巧みである。
         
髙橋正治選 
【特選】
不出来な苗にも春の夢                          松山市  西村きよし
【評】ほどよいしめりある畑、雑草をとったり耕したり、裸足で踏む春の土は温かい。土は春の光りを受けて、ふところをひろげる。母なる大地は全てを受けいれる。晴れた大空へ、まっすぐ一路に伸びるだろう。

【入選】
額縁の埃を払おう近いうちに          松山市 松崎赤子
【評】今年もその日が近づいてきた。合掌にこめるはその人と心を通わす。やさしい表情と心配り、合掌は愛と慈悲である。人として最も美しい姿である。